朝になると俺達は早めに宿を出て王城まで向かった。
少しでもミアが会うための時間を作りやすくするためだ。王城の入り口に着くと兵士さんにゴドウェンへの繋ぎを頼んだ。
しばらくすると奥からゴドウェンがやってきた。「なんだ?今日は面会の約束は聞いていないが」
「それなんですが、実はこのハイドキャットをエルミア様に献上しようと思いまして。昨日話している時に大変気に入られた様でしたので」俺の言葉を聞くとゴドウェンさんはロシェの方を見た。今日は最初からロシェに姿を見せて貰っていた。
「ふむ。そいつをか。まぁ確かに大人しそうだが、お前は良いのか?」
「もちろんです。エルミア様に気に入って頂ければなによりですので。それで急な話で申し訳ないのですが、本日エルミア様にお時間を取って頂けないかと」 「今日か?それはまた難しいことを言うな」 「申し訳ございません。私達にも予定がありまして。無理にとは言いませんのでエルミア様に聞くだけでも聞いていただけないでしょうか?」無理がある話なのは理解している。だが何とか通さないといけないのだ。
俺はなるべく不自然にならない様にお伺いを立てた。「まぁ、聞くだけなら聞いてみよう。そこの部屋でしばらく待っていてくれ」
そう言ってゴドウェンさんは王宮の方へ向かっていった。
俺達は言われた通り部屋に入って返事を待った。(とりあえず、第一段階はクリアか。あとはミアがこちらの意図に気づいてあってくれればいいが)
しばらくしてゴドウェンさんが戻ってきた。なんだか少し腑に落ちないという様子だったが、
「姫様がお会いになるそうだ。今からで構わないという話だから案内する」
と返事が返ってきた。
良かった。これで何とかなりそうだ。 その後、昨日と同じように王宮のミアの部屋まで案内された。「エルミア様、彼らを連れてきました」
「ありがとう。あなたは下がっていて」 「承知しました」というとゴドウェンさんは昨日と同じように部屋の前で待機した
日も暮れて野営の準備を始めた頃、ようやくカランダルさんが目を覚まして起きてきた。「ふわぁ・・・もう夜なんですね。だいぶ眠ってしまいましたか」 「おはようございます。って言って良いのか時間的には困りますけど、ゆっくり休めましたか?」 「えぇ。お蔭さまでだいぶすっきりしました。あ、野営の準備手伝います」 「いえ、起きたばかりですしもう少しゆっくりしていて下さい。準備ももうすぐ終わりますから」 「そうですか?では、お言葉に甘えさせて頂きますか」そういうとカランダルさんは近くに腰かけてのんびりと空を見上げた。 今日は満月だ。柔らかな明かりで照らされ周囲も比較的明るい。「あ、起きられたんですね。おはようございます」そこに薪拾いに行っていたカサネさんが戻ってきた。「えぇ、ゆっくり休ませて頂きました。そういえば装備の方は試されましたか? できれば感触など聞いておきたいのですが」職人としては自分の仕事の成果は気になるものなのだろう。 俺達は昼間の戦闘で感じたことをカランダルさんに伝えた。「そうですか。ちゃんとお役に立てたようで何よりです。明日からは私も勘を取り戻すためにも戦闘に参加しますね。まぁ向こうに着くころにはコクテンシンの件は終わっていそうですけれど」 「そういえばカランダルさん達はAランクパーティなんですよね?ハクシンさんは戦っているところを見せて貰ったことがあるんですけど、ヤミネラさんとカランダルさんはどんな戦闘スタイルなんですか?」 「ヤミネラはクロスボウを使ったサポートタイプだね。流石にスキルまで勝手には話せないけど、それも含めてと考えて貰えばいいよ。私はカサネさんと同じ魔導士だよ。主に火属性と闇属性を得意としてる」前衛一人、中衛一人、後衛一人って感じか。三人パーティとしてはバランスがよさそうだ。「以前にコクテンシンと戦った時にはもう一人、回復や補助を得意とするメンバーが居たんだけどね・・・その時の怪我がもとで引退してしまったんだ。 時々手紙でやり取りする限りでは、今は地元で元気にしているみたいだけどね」カ
カランダルさんの作業完了までの数日間は冒険者ギルドで簡単なクエストを受けたり、例の広場でフリーマーケットに参加したりして過ごした。 そして、四日後にカランダルさんから特性付与が終わったと連絡が来たので、俺達は早速カランダルさんの鍛冶屋にやってきた。「いらっしゃい。早速来てくれたんだね。楽しみにしてくれていたようでこっちも嬉しいよ」 「もちろんです。出来上がるのを心待ちにしていましたから」 「防具までお願いしてしまったのにかなり早かったですね」 「あぁ、黒切を仕上げたことで何か閃きを得たような感じでね。自分でも驚くくらいスムーズに特性付与が進められたんだ。調子に乗ってしまったおかげで少し寝不足だけど」そういうカランダルさんはよく見ると目の下にうっすらと隈ができていた。 しかし、その表情は満足げだ。「俺達の為に、そこまでして頂いてすみません」 「いやいや、こっちも楽しくなってしまって勝手にやったようなものだか気にしないで下さい。さて、お待ちかねの品はこちらになります。どうぞ」そうして後ろの棚から俺達の武器、防具をカウンターに並べた。 俺は早速久しぶりの魔銃を手に取ってみる。「・・・ん~?持っただけだとあんまり違いは分からないですね」 「前にも言ったけれど能力向上は補助程度だからね。流石に持っただけで実感するほどの効果を得るのは難しいよ。走ったり、敵と戦ってみれば感覚の違いが分かるんじゃないかな」なるほど。言われてみればその通りだ。 隣を見るとカサネさんは水の玉をいくつか浮かべて効果を確認していた。 俺も試してみたいところだけど、ライトは迷惑になりそうだしな。あとの楽しみにとっておこう。「カランダルさん、本当にありがとうございました」 「ありがとうございました」 「お役に立てて何よりだよ。それでだけど、一つ、いや二つお願いがあるんだけど良ければ聞いてくれるかな?」 「なんでしょうか?」 「とりあえずはこの後ヤミネラの店まで行くことになると思うんだけど、その後できれば君達にもサムール村まで来て欲しい、というより馬車に僕も
「さて、特性付与について君達からご希望はあるかな?」 「いえその、まず特性付与でどんなことができるかも分かってなくて」 「なるほど。そういえばそうか。では、まずはそこから話そうか」 「すみませんがお願いします」 「といっても、難しい話はしないから気楽に聞いてくれれば良いよ。 特性付与っていうのは名前の通り武器に特有の性質を持たせることだ。 武器種によって相性や無意味になるものもあるけど、それは気になるものがあれば個々に説明しよう。今、私ができるのはこのくらいだね」そう言うとカランダルさんはカウンターの下から数枚の紙束を取り出して、 それを俺達の前に広げた。-------------------- 特性付与一覧表 ・威力強化(小、中、大) ・種族特攻(獣、鬼、竜、・・・) ※特化特性 ・武器破壊 ※特化特性 ・弾速強化 ・射程強化 ・魔力消費軽減(小、中、大) ・重量変化(軽、重) ・耐久性強化 ・耐性強化(斬撃、刺突、投射、・・・) ※特化特性 ・特殊耐性(毒、麻痺、火傷、・・・) ※特化特性 ・能力向上(力、魔、速、・・・) --------------------なるほど。この弾速強化や射程強化っていうのは、遠距離武器用なんだろうな ・・・いや、ゴブリンロードの剣のように衝撃波を放つことができるものの場合、それも対象になるんだろうか?・・・今持っているわけじゃないし、そこは気にしなくてもいいか。 他に気になるのは・・・「この特化特性っていうのは?」 「属性付与と似たようなものだよ。例えば獣特攻を付与した場合、それ以外の種族には威力が下がってしまう。武器の性質をその種族に対して相性が良いものに変化させてしまうからね。耐性系も同じように考えて貰えばいい」そういうことか。であれば候補からは外していいかな。俺達は特定の相手と戦うわけじゃないし、汎用性の方が重要だろう。 そうなると分かり易いのは威力強化だろうか?
街まで戻ってきて衛兵にコゲンジを引き渡して事の次第を説明すると、衛兵達は急いで山中に向かっていった。あとで聞いたところによると、街への観光客が時々行方不明になる事件が起きていたらしい。しかし、いつ居なくなったかは分からず、バーセルドから帰る途中で魔物に襲われたのかもしれないということで調査は難航していたらしい。 ここは観光地で人の往来はかなり多い。そんな中で誰かが居なくなったとしてもどこで居なくなったのかを特定するのは難しいのだろう。「私がもっと早く気づいていれば・・・」 「あいつが本性を隠すのが上手かったってことだろう。少なくともカサネさんが責任を感じることじゃない」 「そう・・・ですね。アキツグさんありがとうございます」 「礼を言われるようなことじゃないけど、どういたしまして」 「いえ、今の話もですけど助けて頂きましたから」そう言ってカサネさんは丁寧に頭を下げた。 小屋でのことを言っているのはすぐに分かった。「それこそ仲間を助けるのなんて当たり前のことじゃないか」 『そうね。それにカサネの拘束を解いたのは私なんだけど?』 「も、もちろんロシェさんもです。ありがとうございます」 『冗談よ。それに私は一回失敗しているしね。あの時はごめんなさい』 「それはお互い様ですよ。まさか街中にあんな仕掛けがされてるなんて、私も思っても見ませんでした」確かに。人通りが少ないとはいえ街中で催眠ガスのトラップを仕掛けるなんて 大胆すぎる。地の利が向こうにあったからこそ先回りできたのだろう。 これは後日コゲンジ達を尋問して分かったことだが、やつらは眠らせたカサネさんを布袋に入れて擬装用の荷物と一緒に荷車であの小屋まで運んだらしい。 眠らせた後のことまでしっかり手はずを整えていた訳だ。 会ったのはその日の午前中だったというのに手際が良すぎる。恐らくは以前から同じような方法を使っていたのだろう。「骨休めするつもりがまたトラブルに巻き込まれてしまったな。でも、コゲンジも捕まって不安の種も解消されたし、今日は温泉に入ってゆっくり休もうか」 「そう
中に居るのは四人、外の一人を合わせて五人か。相手の強さは分からないが、少なくともコゲンジは冒険者という話だった。いくら気付かれずに近づけるといっても一人倒されれば相手も警戒するし、俺のことを感付かれてカサネさんを人質にされたら手が出せなくなる。どうする? 考え込んでいた俺にロシェが話しかけてきた。『アキツグ、敵の気を引いてくれる?その間に私が忍び込むわ』ロシェの案を聞いた俺は頷くと小屋の正面に戻ってきた。 そしてまずは、こちらに気づいていない見張りの男に正面からライトニングの魔弾を撃ち込んだ。「がっ!」男は撃たれたことに気づく間もなくドサッとその場に倒れた。 すかさず俺は影呼びの鈴を鳴らしゴブリンロードを呼び出すと、扉から突入して攻撃は控えめで敵の目を引き付けるように指示を出し、俺自身は窓から中が見えるところまで戻った。「おい、何か・・・え?な、なんだこいつ!?」 「魔物の襲撃?だが、こんなやつ見たことないぞ!?」外の様子を確認に来た男がゴブリンロードに気づいたらしい。そのタイミングで俺は窓から見える男達に向かって残りの弾を連射した。 魔弾は「ガシャンッ!」という派手な音と共に窓ガラスを突き破り、男の一人には当たったが、コゲンジには咄嗟に回避された。「裏にもいるぞ!いったい何なんだ!?」突然のことに慌てながらも、残った男たちは物陰に隠れた。 俺は男達へけん制しながら、時折なるべく派手な音を立てるように残ったガラス窓を撃って、相手の注意を正面と窓側に引きつけるようにした。 そうして少しの間膠着状態が続いたところで、ゴブリンロードと対していた男が驚きの声を上げる。「き、消えた!?」 『カサネ、今よ!』 「エアストーム!」 「!?」突如小屋の中で嵐が吹き荒れた。眠らせた上で口を塞ぎ手足まで縛っていたカサネのことは完全に警戒の外にあった男達は、小屋の中心で発生した嵐に対応できずになすすべもなく壁に叩きつけられた。「な、何故・・・?」いつの間にか猿轡や手足の拘束を解いて起き上がるカサ
昼食を終えて少しゆっくりした後は、再び街中を適当に散策していた。 すると町の一角に市場のような場所があった。 近くの人に尋ねてみると、ここはフリーマーケットとして開放されている広場で誰でも自由に取引ができるようになっているようだ。冷やかしや珍品目当てなど目的は様々だが、観光客も多く結構な人で賑わっていた。 商人としては、こんな光景を見てしまうとどうしても気になってしまう。 一通り見て回ったところで俺は二人に断りを入れて、自分も露店を開くことにした。「せっかくの骨休めでしたのに。でも、やっぱりアキツグさんはそういう姿が似合いますね」 『最近は色々あったけれど、やっぱり根は商人ってことよね』 「そ、そうか?まぁなんだかんだで歴は長いからな。二人は気にせず楽しんできてくれ」 「分かりました。ロシェさん行きましょうか」 『えぇ。アキツグ、さっきも言ったけど一応気を付けてね』 「あぁ、分かってるよ。そっちもな」取引を終えて宿に戻ろうとしたところで、違和感に気づいた。 ロシェの気配がしばらく前からずっと同じところに留まっているのだ。 少しくらいなら景色を眺めていたり、軽食を摂っていたりということもあるだろうが、そう考えるには時間が経ち過ぎていた。 気になった俺はロシェの気配の方へ向かうことにした。 気配を追っていくと辿り着いたのは建物の隙間にできた小道の様な場所だった。 ロシェの気配は、未だにその十字路になっているあたりに留まっている。近づいてもこちらに気づく様子もなく、近くにカサネさんの姿もなかった。(おいおい。嘘だろ?あの二人も警戒はしていたはずなのに、一体何があったんだ?)一応俺は警戒しながらロシェに近づいて行った。当たりに人の気配はなかったが、二人に何かをした存在がまだ隠れている可能性もあったからだ。 しかし、そんな警戒も空しく何事もなくロシェの側まで行くことができた。 ロシェは姿隠状態のまま気を失っているようだった。揺り起こすと少しして目を覚ました。『う、くっ、ここ・・・は?』 「大丈夫か?何があったんだ?」